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ツイッターで140文字からこぼれた妄言を垂れ流します。@rapple001
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175条を議論するにあたって知っておくべき基礎知識
昨日、とある国会議員が、175条の改正に向けて動き出したとのツイート(当該ツイートは下に貼ってあります)を目にし、いくつかどうしてもツッコみたい点があったので、本稿では、175条について議論する上で必要な知識を解説したのち、その175条改正のアイディアのどこがおかしかったのかを検討してみたいと思います。


175条とはなにか?

 刑法175条に規定されるわいせつ物頒布等罪は、以下のような犯罪です。
1 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
 本罪の客体は、わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体、その他の物をいい、これらを総称して「わいせつ物」といいます。
 判例によれば、わいせつとは「いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」ものとされています。しかし、この「わいせつ3要素説」といわれる定義は、「善良な性的道徳概念」といった極めて道徳的な概念を含むのみならず、規範的要素を多く含むためにその限界が極めて不明確であるという問題がかねてより指摘されています。また、憲法21条との関係においても、単なる性道徳では、憲法上保護される表現の自由の制約原理足りえないとして、175条違憲説も古くより根強く主張されています。(刑法学者からの違憲論として、曽根威彦『表現の自由と刑事規制』(1985年)162頁以下など)



175条の問題とは?

・保護法益の問題

 175条の保護法益を、判例は「最小限度の性道徳」としての「性非公然の原則」(最大判昭32年3月13日刑集11巻3号997頁)あるいは、「性生活に関する秩序および健全な風俗」(最大判昭和44年10月15日刑集23巻10号1239頁)に求めています。 (なお、このように保護法益を道徳に求めるようなあり方を指して「社会法益」と呼ぶのだと誤解してる連中人々がいるようなのですが、これは全くの誤りです。たとえば、放火罪や、通貨偽造罪だって社会的法益に対する罪です。)
 しかし、このような理解には先述のような問題点が指摘されており、175条を「わいせつ物を望まない人の性的感情ないし性的自己決定の自由」の集合体としてとらえ直したり、社会環境として、風俗的にいかがわしい商品等が氾濫することののないようにするという「精神的社会環境」説などが唱えられています。しかし、いずれの解釈も、175条の条文との整合性の問題もあり、十分な解決とはなっていないのが現状です。


・摘発対象の問題

 わいせつ物規制というと、多くの人が性器のモザイクや、黒塗りを思い浮かべると思います。しかし、我々が175条の問題だと考えている、いわゆる性器の修正の問題は、実は条文の問題でも、判例の解釈の問題でもありません。性器が隠れていればオッケーという基準は、警察当局が勝手に定めているだけの、根拠のない取り締まり基準なのです。先程みた判例の基準をみて貰えればわかりますが、判例の基準からは通常のAVなどは普通に175条のわいせつ物にあたりうることになります。しかし、警察が独自の基準として、性器が露出しているか否かで取締の可否を決定しているため、これらが取り締まられることはないというだけなのです。
 反対に、このような形式的基準を実務が引いているせいで、判例の基準からしてもどう考えても「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ…」るとは思われない、ろくでなし子さんの作品などが検挙される口実になってしまっている側面もあります。(ただし、この根拠のない基準のおかげで、あいまいな基準におびえることなく創作活動ができる(性器さえ隠しておけば、内容についてはとやかく言われない)という利点はあるため、ここは難しい所でもあります)


・公然性の問題

 175条にいう、頒布・公然陳列には、それぞれ「不特定多数の」というキーワードがかかってきます。判例によれば、公然陳列とは、「不特定または多数の人が認識できる状態」をいうとされています。この理解からは、ある部屋の中にいる多数人の全員がそのわいせつ物を見ることを望んでいたとしても、陳列を行ったものは処罰の対象となってしまうのです。(近時においても、ストリップ劇場で客にショーを見せただけの従業員や踊り子らが公然わいせつ罪で摘発されている事例があります。 https://www.tokyo-sports.co.jp/social/53099/)つまり、現行の制度の下では、わいせつ物に該当する物はどのような方法であっても、多数人に対する配布や販売の対象とすることはできなくなっているのです。(逆に言えば、特定少数人で楽しむ分には、性器無修正の動画のやりとりは現行法上も合法です。)
 そこで、学説の中には、174条、175条の「公然」を「不特定又は多数人が意図せずとも認識してしまう可能性のある状態下において」と解するなどして、見ることを望んでいる成人のみを対象とする場合を処罰範囲から除外するべきだとする立場もあります。(平野龍一『刑法概説』(1977年)271頁など)


今バズってる改正の「アイディア」について

 以上の基礎知識を踏まえて考えると、いまやたらとRTされている改正の「アイディア」には多くの疑問があります。
 まず、わいせつ物頒布罪の保護法益を、社会法益から個人法益に変えるまではよいとして、それを、「見る側」ではなく「見られる側」の利益に還元しようというのは、これまでの議論とはまったくかけ離れた、素っ頓狂な独自理論です。
 そこに、親告罪化という謎の捻りまで加わることで、この「アイディア」を考えた者がいかにこの問題に無知であるかをさらけ出してしまっています。
 このアイディアの基には、被写体の利益を守るという、児ポ法類似の発想があるものと思われますが(というか、考えたやつが児ポ法しかまともに知らなかっただけだと思われますが)、これは175条とは全く別次元の話であり、こういった議論は、改正論ではなく、新規立法論として展開されるべきものです。
 正直、このレベルでは、問題に対する基礎的知識の欠如が疑われ、議論のたたき台としての役割すら果たせないものと思われます。
そこで、ここからは、公然性の問題に着目し、「すこしはまともな」175条削除・改正論の一案を示すことにします。


175条の削除?改正?

 改正論議を行う前提として確認しておかなければならないのは、175条に変更を加えるとして、どのような行為は許容し、どのような行為を禁止するのかです。例えば、公然陳列類型についてはどうするべきでしょうか。


・路上で性器丸出しのおじさんを許容するか?(174条の当否)

  刑法174条は、「公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」として、いわゆる露出魔のような行為を処罰しています。
 さて、このような行為も、175条同様に合法化されるべきでしょうか?これは論者によって立場が異なるところだと思います。174条も削除すべきであるという立場も十分あり得ますし、さすがにそれは…という人も少なくないはずです。(このような行為は軽犯罪法や各都道府県の条例違反にもあたる行為なので、174条を削除したとしても完全に不可罰化されるわけではありません。)
 仮に174条の存在に一定の意義を認める(=見たくない人の利益もしくは、社会環境も刑法上保護する)場合には、175条にもその限度で存在価値を見出すことができるでしょう。


・わいせつ概念の再検討

 175条を一定の範囲で残す場合には、わいせつ概念の再検討は必須でしょう。先述の通り、現状の「性器規制」式の運用は、あまりにもばかげています。
 しかし、これには多くの困難が伴うことが予測されます。なにがわいせつかについて、明確な基準を設定することは著しく困難である一方、定義にあいまいさを残してしまうと、恣意的な運用が可能になってしまうからです。


・「公然」の範囲の限定

 また、わいせつ物頒布・公然陳列罪を残す場合には、公然概念の限定も必要になってくると思われます。先述の通り、わいせつ罪の保護法益を個人法益、もしくは個人法益に裏付けられた社会法益として捉え直すならば、不特定または多数の「人」は、青少年、またはわいせつ物との接触を望んでいない成人に限定されるべきででしょう。すなわち、わいせつ物に接することを望んでいる者しかいない場でわいせつ物を頒布したり陳列する行為は、非犯罪化されるべきだということになります。
175条については、ほかにもいろいろ問題があるので、これですべての論点をカバーできたわけではありませんが、「少なくともこれくらいは知っておくべき」という最低ラインの提示と、あまりにも不勉強な某議員への忠言を込めて、一旦筆をおきたいと思います。

某議員とその支持者は、まず勉強してください。もしくは、勉強してる人の話を聞きに行ってください。

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